狂犬病は治療法がなく、発症すると致死率ほぼ100%という非常に恐ろしい病気です。
日本・ニュージーランドなど一部の国を除いて世界中で流行しており、途上国に行かれる際にはぜひ受けておきたい予防接種の一つです。
しかし、狂犬病ワクチンは事前に接種していたとしても、もし犬に噛まれた場合、追加で接種する必要があります。そのため、「あまり効果がないのではないか」と接種せずに海外に出る人も多くいます。
この記事では、なぜ狂犬病ワクチンを接種したほうが良いのか、そのメリットと狂犬病の発生状況・症状・予防接種の打ち方・噛まれた場合の対処法についてご紹介します。
狂犬病とは
発生状況
狂犬病ウイルスによって起こるウイルス性の感染症です。発症するとほぼ100%死亡する非常に恐ろしい病気です。
世界では年間5万5千人死亡しています。
暴露(動物に噛まれた)後のワクチン接種者は年間1500万人です。 (WHO 2004年)
出典https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
日本では狂犬病は撲滅されており、狂犬病が”0”の「狂犬病清浄国」となっています。上の表を見ると狂犬病が発生していない地域は日本、オーストラリア、イギリス(一部)など非常に少ないことがわかります。
日本以外のほとんどの国・地域では狂犬病のリスクがあり、渡航の際は予防・対策が必要なんです。
ちなみに、動物咬傷に会う確率は途上国では1カ月滞在で2~12%と言われています。
感染経路
出典https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
狂犬病にかかった動物(主にイヌ)に噛まれた部位から唾液に含まれるウイルスが侵入します。
唾液のついた爪で引っ掻かれるだけでも感染の危険性があります。
アメリカではコウモリが主な感染動物であり、狂犬病という名前でも、犬だけが感染源というわけではありません!
また、通常感染したヒトからヒトへ感染が拡大することはありません。(ただし、唾液にはウイルスが含まれているので傷口や粘膜からは感染する可能性があります。)
症状
潜伏期間(症状が出るまでの期間)は約1週間から数年(通常は1カ月程度)など様々です。
傷口の位置、大きさやウイルスの量で大きく変わります。
風邪のような症状(食欲不振、発熱、悪寒、頭痛など)から始まり、その後神経症状(興奮、せん妄、精神錯乱、麻痺)などがあらわれます。
その後昏睡状態となり、3~7日の昏睡の後死に至ります。
治療法
発症すると治療法はありません。致死率ほぼ100%です。
発症を予防するために、噛まれた後ワクチン接種をすることが重要となります。
噛まれた場合の対処法
➊できるだけ早く傷口を流水と石鹸で15分以上洗い、イソジンで消毒する。
(可能であれば飼い主に、狂犬病のワクチン接種済みかどうか確認しましょう。)
➋当日すぐに医療機関を受診しワクチン接種を開始する。
ワクチン接種者と未接種者で対処方法が異なります。
事前に予防接種を受けていない場合
・24時間以内に狂犬病免疫グロブリン(RIG)を咬傷部位への注射1回
(早いほどよいです。どうしても無理な場合は7日以内に。)
・狂犬病ワクチンの接種3~4回(0,3,7,14~28日)
※傷の程度・製品(接種方法)により異なります
事前に予防接種を済ませている場合
・狂犬病ワクチンの接種2回(0,3日)
ワクチン未接種者が噛まれた場合は、追加でRIGを投与する必要があります!
❸帰国後は検疫所(健康相談室)に相談する。
最大数年(通常は1ヵ月程度)の潜伏期間があります。現地医療機関受診の有無にかかわらず相談しましょう。
予防方法
致死率100%と非常に恐ろしい病気なので、事前に予防接種をすることが大事です。
2018年にWHOの推奨するワクチン接種方法が変わりました!(輸入ワクチンのみ)
狂犬病WHOポジショニングペーパーの更新
3回法→2回法(0.7日)へと変更となっています。
(名鉄病院の先生によると、0・ 7~ 28日でも良いそうです。)
※海外ではまだ2回法が浸透していないようです。日本国内でも輸入ワクチン3回法のところはまだまだあります。 →タイのスネークファームでは、予防接種は2回法になっているそうです。
上記は輸入ワクチンにおける接種方法であり、国内で承認されている枠輪の用量・用法は異なります。
なお、狂犬病ワクチンを接種する場合、国産品よりも輸入品を絶対オススメします!
その理由はこちら。
狂犬病ワクチンを事前に打ったほうがよい理由
①免疫グロブリン(RIG)は世界中で不足している
本題です。
感染した動物に噛まれる=発症ではありません。受傷し感染した後は約1週間から数年(通常は1カ月程度)の潜伏期間があり、その後発症します。狂犬病ワクチンを接種することにより、その発症を予防することができます。
しかし、受傷後狂犬病ワクチンを接種してから体の中に抗体(侵入した異物に対して攻撃する役割を持つたんぱく質)ができるまでに1~2週間必要です。
抗体ができるまでは、完全に無防備な状態なのです。
抗体ができるまでの無防備な期間を守るために、抗狂犬病ウイルス免疫グロブリン(RIG)を初日にワクチンとは別に接種する必要があります。
しかし、RIGは世界的に不足しており、途上国や地方ではRIGを受けられない可能性が高いのです。在庫があったとしても非常に高価です。
実際に狂犬病が根絶されている日本に、RIGは存在しません。
全世界の90%の患者はRIGの投与なくワクチンのみで治療を受けているのが現状のようです。
②ワクチン接種してから抗体ができるまでの期間、体を守る
犬に噛まれた後、打つべきRIGが打てないかもしれない・・・では、どうすればよいのか。
最初から体内にRIGを作っておけばよいのです!犬に噛まれる前のワクチン接種がその役割を果たします。
体内に作られたRIGによって、動物咬傷後のワクチン接種から抗体ができるまでの無防備な1週間を守ることができます。
③免疫グロブリン(RIG)を打つ必要がなくなる。
さらに、事前にRIGが体内に作られているため、動物に噛まれたときにRIGを投与しなくて済む(=ワクチン接種のみで済む)ようになります。
④ワクチン接種の回数が減る
狂犬病ワクチンを事前に接種していない場合、最大4回接種(0,3,7,14〜28日)が必要となります。
費用がかかるのはもちろん、約1カ月も同じ場所にいなければなりません。時間的なロスが大きいです。
それに比べ、ワクチン接種歴がある場合は、2回接種(0,3日)だけで済むのです。大怪我をしていなければ、すぐに次の場所へ移動ができます。
期間が限られている旅行者にとっては非常に大きなメリットだと思います。
⑤動物に噛まれてからワクチン接種まで猶予期間ができる
前提として、動物に噛まれたら当日中にワクチン接種をするほうが良いです。
しかし、農村部に出かけている場合、近くに病院がないかもしれません。その日のうちに病院受診できない可能性、狂犬病ワクチンを置いていない可能性もあります。
しかし事前にワクチン接種を受けていた場合、抗体がすでにあるため1週間程度であれば遅れても大丈夫だそうです。(名鉄病院予防接種センターの先生にメールでお聞きしました。非常に丁寧に教えていただきました。)
ただし遅れても大丈夫と安心せず、命を守るために必ず早めの受診、早めの予防接種を心がけてください!
まとめ
➋ワクチン接種してから抗体ができるまでの期間、体を守る
❸免疫グロブリン(RIG)を打つ必要がなくなる。
❹ワクチン接種の回数が減る
❺動物に噛まれてからワクチン接種まで猶予期間ができる
以上5つの理由から狂犬病流行地域に渡航する場合、事前の予防接種を絶対オススメします。
「噛まれても結局ワクチンを打たないといけないから、狂犬病ワクチンは打たなくていいかな」と考えている方。
この記事を読んで、少しでも気持ちに変化があれば嬉しいです。
事前のワクチン接種で、狂犬病から命を守る可能性はずっと高くなります。ぜひ狂犬病ワクチンの接種を検討してみてください。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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